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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)4322号 判決 1968年2月14日

原告 米元光王 外一名

被告 渡辺鋼材株式会社 外一名

主文

被告らは各自原告米元光王に対し、金三、五三四、〇九四円、及び、これに対する昭和三七年三月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは各自原告米元ミツエに対し、金七八〇、〇〇〇円、及び、これに対する昭和三七年三月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

この判決の第一、二項は仮に執行することができる。但し、原告米元光王に対し被告らのいずれか一方が金一、〇〇〇、〇〇〇円の、原告米元ミツエに対し被告らのいずれか一方が金三〇〇、〇〇円の、各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

(当事者双方の求めた裁判)

一、原告ら

被告らは原告米元光王に対し連帯して金八、八七〇、六四一円、及び、これに対する昭和三七年三月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは原告米元ミツエに対し連帯して金一、七一一、七三一円、及び、これに対する昭和三七年三月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決、並びに、仮執行の宣言

二、被告ら

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

(当事者双方の主張)

第一、請求の原因

一、被告渡辺鋼材株式会社(以下単に被告会社という)は、屑鉄一般の選別加工及び販売を業とする会社であるところ、原告米元光王(以下単に原告光王という)は昭和三六年六月より被告会社に常傭労務者として雇用され、以後同会社で屑鉄選別業務に従事してきた。

二、昭和三七年二月二八日、被告会社代表取締役である被告渡辺福一は、被告会社が買受ける砲弾は輸入品であつて往々爆発の危険があり、原告が平素は屑鉄の選別のみに従事し砲弾をガス熔接機により切断する業務については全く未経験であることを知つていたのであるから、砲弾の雷管及び爆薬の有無並びにその摘出方法等について指示を与え、絶対に爆発の危険のないことを確認した上で右業務を命ずべきであつたにもかかわらずこれを怠り、被告会社が買受けた砲弾中にはかかる危険はないものと盲信し、その職務の執行として、原告光王に対し、長さ約二〇糎直径約八糎の砲弾を切断するよう命じたので、原告光王がやむなくその命に従い右砲弾をガス熔接機で切断したところ突然右砲弾が爆発した。原告光王はこれにより両側内耳性難聴、左慢性穿孔性中耳炎、急性ガス中毒症、脳振盪症、左下腿開放性骨折の重傷を負い、且つ、顔面、右肩、前胸、右手掌、腹部、睾丸、陰茎、両鼠径、両大腿、両下腿、足関節に爆創を受け、右爆発後九日間意識不明に陥り、その後も引続き二カ年七カ月間入院し、一旦昭和三九年九月三〇日退院したが、左足骨硬化症により再度骨折し昭和四〇年四月六日再入院し、現在なお入院加療中であり、過去五一回に及ぶ手術を受け将来も腹部等に散在する鉄片を排除する手術を何回受けねばならないか不明の状態であり、肉体労働は不能となり、又体内の鉄片により如何なる後遺症が発生するやも知れず、肉体に関する苦痛と将来に対する不安から精神的にも測り知れない損害を受けた。

三、原告光王が前項の爆発事故により蒙つた財産上の損害は次のとおりである。

(一) 得べかりし利益の喪失による損害

事故発生当時原告光王は満四六才三カ月で何等病気もなく健康であつたから、平均余命は二五・六八年であり、少くとも満六〇才まで即ち一六五カ月間は労働可能であつた。被告会社における事故発生以前三カ月間における原告光王の一日当りの賃金は、一、二〇〇円(浪速港労働基準監督署における第二種傷病給付金算定の基礎となつている平均賃金は、後記のとおり、一日七九八円九一銭であるが、これは原告光王の入院中に被告会社が一方的に申告した、一日一、二〇〇円月間労働日数二〇日により算出されたものであつて、労働日数の点で事実に相違する)であり、月平均二五日は労働していたから、被告会社における収入は月額三〇、〇〇〇円である。ところで原告光王は被告会社におけるとは別に、大阪市港区築港所在近藤製鉄株式会社において毎日曜日屑鉄排出作業に従事し、毎月一三、〇〇〇円乃至二〇、〇〇〇円の取入があつたがこれを一カ月平均一五、〇〇〇円とすると、原告光王が一カ月に取得し得た金員は四五、〇〇〇円となり、一六五カ月間の総額は七、四二五、〇〇〇円である。右金員にホフマン式計算法(年利率五分、一三・七五年)を適用すると原告光王が即時取得すべき金額は四、四〇〇、〇〇〇円となる。

(二) 得べかりし利益より控除すべき金額

<1> 休業補償費

原告光王は昭和三七年三月一日から昭和四〇年七月九日まで金六三五、九四六円の休業補償費の支払いを受けた。但しこの休業補償費は労働基準監督署より交付を受くべきものであるが、内金四七二、三八六円については後記<4>の方法で被告会社より立替払いを受けたので、直接に労働基準監督署より交付を受けた金額は一六三、五六〇円である。

<2> 傷病給付金

原告光王は昭和四〇年七月一〇日から労働者災害補償保険法により第二種傷病給付を受けることになつたが、その金額は平均賃金七九八円九一銭の二〇〇日分に一二二%をスライドして年間一九四、九三四円であり、その受傷程度からみて二年間は継続受給が確実であるから三八九、八六八円となる。

<3> 障害給付金

原告光王は、最低限一下肢の三大関節中一関節の用を廃することは確実であるから労働者災害補償保険法別表第一の第八級に該当すること明らかであつて、障害給付金として前記平均賃金の四五〇日分三五九、五〇九円を受領できる。

<4> 被告会社より受領した損害賠償金

原告は被告会社から昭和三七年三月以降昭和三九年五月まで毎月四〇、〇〇〇円、同年六月以降同年九月まで毎月三〇、〇〇〇円、計一、二〇〇、〇〇〇円を受取つた。然し右金員中四六五、〇〇〇円(一カ月一五、〇〇〇円として三一カ月分)は原告米元ミツエ(以下単に原告ミツエという)の看護料名義で(原告ミツエは原告光王と共に本件事故発生以前から被告会社に勤務し、事故発生当時本工として一カ月一五、〇〇〇円の賃金を受領していたが、本件事故による看護のため就労できない代償として)原告ミツエに支払われたものであり、また四七二、三八六円は前記の如く休業補償費の立替払であるから、被告会社は差引金二六二、六一四円の損害賠償をしたことになる。

よつて得べかりし利益より控除すべき金額は一、六四七、九三七円である。

(三) 弁護士費用

本件のような不法行為に対する損害賠償請求の訴をなす場合、弁護士たる代理人を選任して訴訟を追行しなければならないから、原告光王は被告らに弁護士費用を請求する権利を有する。大阪弁護士会の報酬規定によれば、弁護士に対する報酬は一割乃至三割であるから、原告光王は被告会社に対し右範囲内において一割五分を請求する。原告光王の被告会社に対する請求額は後記慰藉料を含めると金七、七一三、六〇一円であるからその一割五分は一、一五七、〇四〇円である。

四、慰藉料

(一) 原告光王が本件不法行為により蒙つた精神的損害による慰藉料として被告会社に対し金五、〇〇〇、〇〇〇円を請求すべきところ、原告光王は昭和三九年一二月一〇日大阪南警察署において警察官立会の下に、被告会社から、原告両名に対する慰藉料の前渡分として五〇、〇〇〇円を受領した。右金員を本訴における原告両名の慰藉料請求金額について按分すると、原告光王に充当するべき金額は七六・九二三%、即ち三八、四六二円(円未満四捨五入)であるから、残額四、九六一、五三八円を本訴において請求する。

(二) 原告ミツエは原告光王の妻であるが、原告光王の前記受傷により著るしい精神的打撃を受けた。即ち原告らの家庭は本件事故当時小、中学生三人の五人家族であり、原告ミツエは家計を助けるため被告会社に勤務し平穏な家庭生活を営んできた。然るに、本件爆発事故のため原告ミツエは原告光王の看護に専従し、その間昭和三九年九月までは被告会社より略給料額に相当する一カ月一五、〇〇〇円を生活扶助料の一部として受取つていたが、同月末その支払いを打切られてからは自ら労務者として働くことを余儀なくされている。その間原告光王は生死の境を往来し、三人の幼少の子をかかえた原告ミツエは心痛のため夜も眠れぬ日が続き、現在においても将来に対する不安、特に子供の進学等に思い悩んでいる。更に、本件事故のため著るしく肉体の機能を害し健康をそこねている原告光王につき添つて生涯を送らねばならないことを考えると暗澹たる状態である。これらの精神的苦痛を考慮した場合、原告ミツエに対する慰藉料は一、五〇〇、〇〇〇円が相当であるが、前記のとおり被告会社から原告両名に対する慰藉料前渡分として五〇、〇〇〇円を受取つているから、按分すると、原告ミツエに充当さるべき金額は二三・〇七六%即ち一一、五三八円(円未満切捨)であるから右金額を右の一、五〇〇、〇〇〇円から控除し、他方弁護料に関し原告光王の場合と同様の理由から二二三、二六九円の支出が見込まれるからこれを右の一、五〇〇、〇〇〇円に加算すると、結局原告ミツエが被告会社に対して請求する金額は一、七一一、七三一円である。

五、以上のとおり被告会社は本件爆発事故により蒙つた損害の賠償として、原告光王に対しては合計八、八七〇、六四一円、原告ミツエに対し合計一、七一一、七三一円を支払うべき義務がある。

また、被告渡辺は被告会社の代表取締役であるがその職務を行うにつき、第二項記載のような重大な過失を犯し、その結果原告らに対して右のとおり損害を与えたものであるから、商法二六六条の三により被告会社と連帯して原告らに対し右金員を支払う義務がある。

第二、被告らの答弁

第一項の事実中原告光王が昭和三六年六月頃から被告会社で就労していたことは認めるが、常傭工であつたことは否認する。第二項の事実中、原告ら主張の日に本件爆発事故が発生し、これによつて原告光王が負傷したことは認めるが、被告会社に過失はない。即ち、本件爆発事故の原因となつた砲弾は屑鉄として米国から輸入されたものであり米国は勿論日本に於いても輸入の際特別の検査機関(右検査は中国火薬株式会社があたつていた)によつて厳重な検査がなされ、危険物でないことの保証の下に電炉鉄屑需給委員会を経て一応三菱倉庫に一定期間保管されその後被告会社ら解体業者に解体を依頼するものであつて、被告会社は右の保証を信じて従来これを処理してきたし、また未だかつて本件のような事故が発生したこともなかつた。

尤も被告会社としては念には念を入れるということで、素人考えで疑わしいもの(未完成品であるむく以外で空道の通つていないもの)は解体から除外するよう従業員に指示していたし、本件において原告光王に解体を命ずるに際しても色々な注意を与えている。原告光王は今迄二、三回砲弾解体の経験があり右の指示は充分理解出来た筈であるのに、これを無視し不用意に解体作業を行つた過失によつて本件爆発事故が発生したものであつて、被告会社に何等責任はない。

第三項(一)の事実のうち、原告光王が被告会社において一カ月平均二五日勤務していたことは否認する。

月平均二〇日乃至二一日にすぎなかつた。また原告光王が毎日曜日近藤製鉄株式会社で鉄屑排出作業を行つていたことは知らないし、仮にそれが事実だとしても右作業により月一三、〇〇〇円乃至二〇、〇〇〇円の収入があつたことは常識上考えられないことであつて否認する。原告光王の被告会社での地位は日雇であつて勤務日も確定していない上何時までこの仕事が続くのかも不明であり、まして近藤製鉄での作業は、仮にそのようなことがあつたとしてもアルバイトにすぎなく、これらを一生の仕事として損害金を算出することは不当である。同項(三)の弁護士報酬については、原告光王も寝込んでいるわけのものではなく、当裁判所にも度々出廷しているし、原告ミツエも達者で、自ら訴訟の遂行が不可能とは言えない。弁護士に訴訟を依頼することは自由であるがその報酬を損害金中に加算することは法律上できない。第四項慰藉料について。被告会社が原告らに対しその主張の日五〇、〇〇〇円を授与したことは認めるが、右金員は慰藉料ではなく越冬資金として与えたものにすぎないから本件損害賠償とは何ら関係がない。原告光王の請求する慰藉料五、〇〇〇、〇〇〇円は如何なる角度より検討するも過大極まるものであつてとうてい認められない。原告ミツエに対しては、仮に被告会社に何らかの過失があるとしても、賠償責任はない。かかる事故については直接の被害者である原告光王に対し責任を負えば充分であり、これによつて妻である原告ミツエも満足されるはずである。第五項の事実中、被告渡辺が被告会社の代表取締役であつたことは認めるが、その余の事実(被告渡辺の重過失)は否認する。

第三、抗弁

一、本件爆発事故は原告光王の過失によつて発生したものであること前記のとおりであるから、仮に被告らに何等かの過失があるとしても、被告らは過失相殺を主張する。

二、本件事故の発生は昭和三七年二月二八日であるところ、原告被告間に本件損害賠償の内容について話し合つたこともなく、ましてや原告らから金額を呈示して請求されたこともないのに、本訴において突然請求してきたが、事故後本訴提起まで三年以上が経過しているから時効により原告らの権利は消滅している。

第四、原告らの答弁

原告光王の過失を否認する。本件事故発生が被告ら主張の日であり、本訴提起まで三年以上が経過していることは認める。

第五、再抗弁

請求の原因第四項記載のとおり、被告会社は、昭和三九年一二月一〇日大阪西警察署において原告両者に対し現金五〇、〇〇〇円を交付したが、右金員は本件爆発事故の結果原告らが蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料の一部であるから、本件損害賠償請求権は被告会社の右承認行為により中断した。また右損害賠償義務についての被告会社と被告渡辺との関係は、連帯債務関係であるから、被告会社に対する時効の中断は被告渡辺に対してもその効力を及ぼすものである。

第六、被告らの答弁

原告ら主張の日に被告会社が原告両名に対し金五〇、〇〇〇円を交付したことは認めるが、その趣旨は前記のとおり原告らが年末も迫り生活に困ると泣きついて来たので越冬資金として与えたものであつて本件損害賠償とは関係がなかつたから、時効は中断していない。かりに時効が中断されたとしても、それは被告会社に対する請求権についてのみ中断され、被告渡辺に対しては中断されていない。

(当事者双方の立証)<省略>

理由

一、昭和三七年二月二八日原告光王が、ガス熔接機を使用して切断作業中であつた砲弾様鉄塊が突然爆発したため重傷を負つたことは当事者間に争いがない。

二、被告渡辺福一の過失の有無について

(一)、被告渡辺が前項の爆発事故当時被告会社の代表取締役であつて、原告光王に対し砲弾様鉄塊の切断を命じたのが、同被告であること、は当事者間に争いがない。

(二)、証人渡辺保男、同世良逸治、同田所豊信の各証言、並びに、被告渡辺福一本人尋問の結果を綜合すると、本件爆発事故の原因となつた砲弾は、鉄屑として米国から輸入されたものであるが、米国から輸入する鉄屑中には本船一艘当り五、六個から二〇個に及ぶ砲弾様鉄塊が混入しており、これが未完成品たる砲弾であるか或いは単なる鉄塊にすぎないのか一見しただけでは判別できないため、輸入鉄屑の陸揚げの際これが発見された場合には他の屑鉄からこれを分離しておき、中国火薬株式会社(以下単に中国火薬という)所属の検査員に依頼して危険物か否かにつき検査を受け、検査後は三菱倉庫株式会社大阪支店に集積保管し、それが相当数たまると、屑鉄輸入商社の代行機関である関西電炉屑鉄需要給委員会が被告会社等の屑鉄選別加工業者に解体を依頼していたこと、右砲弾様鉄塊は直径七糎長さ五〇糎程度の大きいものから、直径三糎長さ一五糎程度の小さいものまでありその形態は一定していないが、内部が空洞になつていて素人眼にも火薬が詰つていないことが大体確認できるものと、空洞がなく外観的には砲弾そのもの(但し信管は除去されている)であつて、内部も一様に鉄でできているのか或いはその一部に火薬が詰つているかについて不明であるものとがあつたこと、被告会社では昭和三六年四月頃から開西電炉屑鉄需給委員会の依頼を受けて、右鉄塊の引渡しをうけ解体作業に従事していたが、解体後の鉄塊は大谷製鋼等の鉄鋼メーカーに納入していたこと、被告渡辺は引渡しを受けた砲弾様鉄塊が中国火薬の検査を経ている事実についてはこれを聞知していたけれども、その検査の具体的な内容、程度、方法等については知らなかつたし、又右鉄塊には安全性を確認する特別の表示も貼付されていなかつたこと、が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)、証人筒井善美、同田所豊信(但し後記措信しない部分を除く)、同北上定美(但し同上)の各証言、並びに、原告光王本人尋問の結果(但し同上)によれば、被告会社では砲弾様鉄塊の解体作業は主たる業務である屑鉄の選別加工の合間に暇を見つけて行つていたにすぎなく、右作業は現場監督の田所豊信外二、三の工員が従事していたものであつて、原告光王は本件爆発事故当日まで右作業を行つた経験がなかつたこと、右鉄塊の解体はガス熔接機の火力を利用し、縦割りで半分に、若しくは、所謂大根切りで数個に焼き切る方法により行つていたが、空洞のない鉄塊についての安全性の確認は主として手づかみした際の重量感に頼るものであつて、その識別は経験のない者がするには困難であつたこと、昭和三七年二月二八日午前一〇時頃被告渡辺は、屑鉄選別作業に従事していた原告光王を呼び寄せ、解体作業の経験があるかどうかを同原告に質すことなく、ただ慢然と、解体を行うよう命じたこと、原告光王は解体作業場から約三〇〇米離れた被告会社第二工場にいた前記田所に電話で指示を求めたところ、田所は切断方法を説明したものの砲弾様鉄塊の安全性の確認方法については特に言及しなかつたこと、このため原告光王は空洞のあいたものとそうでないものとの差異に特別留意することなく解体作業に着手したため、同日午前一〇時三〇分頃、原告光王が四個目の砲弾様鉄塊(直径五糎長さ二〇糎程度のもの)を切断すべくこれにガス熔接機の火力をあてたところ突然これが爆発したことが認められる。被告らは「疑わしいもの(未完成品であるむく以外で空洞の通つていないもの。)は解体から除外するよう従業員に指示していたし、本件において原告光王に解体を命ずるにさいしてもいろいろの注意を与えている。原告光王は、二、三回砲弾解体の経験もあり、右指示は充分理解できた筈であるのにこれを無視し、不用意に解体作業を行つたものである。」と主張し証人田所豊信、同村上定美の各証言並びに原告光王、被告渡辺福一の各本人尋問の結果にはこれにそう部分もあるが、これらは前掲証拠に照らして容易に措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(四)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一号証に、原告光王、同ミツエの各本人尋問の結果によれば、原告光王は右爆発により九日間意識不明に陥り、辛うじて一命をとりとめたものの、急性ガス中毒症、左下腿開放骨折、前胸部睾丸陰茎部及び両鼠径両大腿両下腿足関節部の各爆創、右大腿盲貫創、顔面挫創、脳振盪症等の重傷を負い、このため右事故当日から昭和三九年九月三〇日まで入院して加療を続け一且退院したが、昭和四〇年四月六日再び入院し昭和四一年七月三一日退院したこと、その間、腹部から下半身全面にわたつて体内に喰い込んだ弾片を摘除する手術を二十数回繰返したが、なお相当数の弾片が摘出されずに体内に残つていること、右受傷の結果現在原告光王は極度の難聴と歩行困難(杖を使用して数百米歩ける程度の歩行能力しかない)をきたし、労働能力並びに性的能力を共に喪失したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(五)、右認定事実によれば、本件事故の原因をなした砲弾様鉄塊は完全な砲弾ではなく、また、中国火薬検査員の検査を経たものであるから、単なる打撃や接触のみによつて爆発する危険性がないことは当然であるとしても、右検査の内容、方法、等が具体的に明らかではなかつた本件においては、右鉄塊内部に火薬物が混入している可能性は絶無とはいえないのであるから、これにガス熔接機等による火力をあてる時は人間の生命を奪うに足るだけの爆発事故が生じる危険性は存在していたのであつて、被告渡辺福一もこれを認識していたか少くとも認識する可能性はあつたものというべきである(鉄鋼メーカーが本件の砲弾様鉄塊については解体された後のものでなければ、輸入商社等からこれを受取ることをしなかつたことが前記認定の事実から窺われるのであつて、こうした事情からも危険性の存在についての認識は可能であつたと思われる)。果してそうだとすれば、被告渡辺としては右鉄塊の解体作業を従業員に命ずる場合においては、当該従業員にその経験の有無を確かめるべきは当然であつて、特に被告光王のような未経験者に対しては、空洞のない砲弾様鉄塊を解体の対象から除外するよう強く指示し、右作業経験の深い現場監督田所豊信をして安全性の確認ができる砲弾様鉄塊を原告光王のために選別してやるべく指示する等の措置をとり爆発による事故の発生を未然に防止すべき義務があつたものというべきところ、本件の砲弾様鉄塊は全て安全なものである旨軽信して何ら右措置に出ることなく、慢然と解体作業を命じたにすぎない被告渡辺には、重大なる過失があつたものといわざるを得ない。

三、ところで前項で認定した事実によれば、被告渡辺は職務執行の過程において、従業員たる原告光王に解体作業を命じたものであるから、その「職務を行うにつき」同原告に損害を加えたものであること明らかであつて、従つて被告会社は商法第二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、又、被告渡辺福一は商法二六六条の三の一項により、各自連帯して(被告両名の関係は商法二六六条の三による)本件爆発事故により原告両名が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

四、本件事故によつて生じた損害について判断する。

(一)、原告光王の逸失利益

成立に争いがない乙第一号証に、証人筒井善美の証言、原告光王(但し後記措信しない部分を除く)、同ミツエ(但し、同上)及び被告渡辺福一の各本人尋問の結果、並びに、弁論の全趣旨によれば、原告光王は昭和三六年六月頃より被告会社に雇われ、本件爆発事故当時被告会社において屑鉄選別作業に従事し日給一、二〇〇円、毎月少くとも二〇日間就労し一カ月二四、〇〇〇円を下らない収入を得ていた外、毎日曜日及び祭日を利用して訴外近藤製鉄株式会社において屑鉄排出作業に従事し日給二、〇〇〇円以上、一カ月少くも四回で合計八、〇〇〇円以上を得ていたから、結局毎月総額三二、〇〇〇円以上の収入があつたと認められ、右認定に反する原告光王、同ミツエの各本人尋問の結果は採用しない。

そして本件事故により原告光王が労働能力を喪失し完全に自己労働による収入の途を閉ざされたから右金員金額が原告光王の一カ月の得べかりし利益の損失であるというべきであるが、原告光王は本件事故当時四六才三カ月の健康な男子であつて、その平均余命は二五・六八年であることは被告らの明らかに争わないところであり、前記認定に係る原告光王の職業を併せ考えると、その余命の範囲内で六〇才まで一六五月間就労し得、且つ、特段の事情のない限り右程度の収入を将来も取得するものと認めるのが相当であり、原告光王の被告会社での地位が日雇で、いつまでこの仕事が続くか不明であり、近藤製鉄での作業がアルバイトであるとしても右程度の収入の取得を困難ならしめる特段の事情に該るものとは到底認めることはできない。そこで就労可能月数を一六五としその間に得べかりし利益の本件事故当時の現価を、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算定(月毎の単利年金現価率による)すれば、四、〇一二、〇三四円が原告光王の得べかりし利益の損失となる(円未満切捨)。

32,000(円)×125.37607 = 4,012,034(円)

ところで原告光王は、同原告が本件爆発事故後の入院治療期間中に労働基準監督署から休業補償費として六三五、九四九円の交付を受け、また労働者災害補償保険法に基づき傷病給付金として三八九、八六八円、同じく障害給付金として三五九、五〇九円を受領し若しくは受領が確実であること、更に本訴提起前に被告会社から二六二、六一四円を受領したことをいずれも自認するので右金員の合計一、六四七、九四〇円は損害が回復されたものとして前記得べかりし利益の損失額から控除されるべきである。従つて原告光王の逸失利益は二、三六四、〇九四円となる。

(二)、慰藉料

前記認定のとおり、原告光王は本件爆発事故にあつたため、二年一一カ月に及ぶ長期間入院治療を続け、特に事故直後の五カ月間は体内に喰い込んだ弾片がもたらす激痛に悶え苦しみ、辛うじて一命はとりとめたものの、極度の難聴と歩行困難、及び、弾片摘出手術等々により労働能力及び性的能力をともに喪失するに至つた事実その他諸般の事情を考慮すれば、本件事故による重傷のため原告光王が蒙つた精神的損害に対しては慰藉料一、二〇〇、〇〇〇円を認めるのが相当である。

また、夫光王の受傷時の苦悶や前記手術後の後遺障害、労働能力の喪失等により、原告ミツエは一家五人の経済的負担を自ら荷わねばならなくなつたこと、及び正常な夫婦生活を営むことによつて得られる幸福についても原告光王の身体状況からは断念せざるを得なくなつたこと等諸般の状況変化が原告ミツエの精神上に及ぼした影響は、夫光王が死亡した時に蒙るであろう精神的打撃に殆んど匹敵するものと推測するに充分であるから、同原告に対しても民法第七〇九条、七一〇条に基いて慰藉料請求権を有するものと認めるのが相当であるところ、右の如き事情下においては原告ミツエの蒙つた精神的苦痛を慰藉するには八〇〇、〇〇〇円が相当である。

ところで原告らが昭和三九年一二月一〇日被告会社から五〇、〇〇〇円を受取つたことは当事者間に争がなく、成立に争いがない甲第二号証、原告両名の各本人尋問の結果によると、右金員は原告らに対する慰藉料の一部として交付されたものであることが認められる。被告会社は、「右金員は慰藉料ではなく、越冬資金として与えたものにすぎない。」旨を主張し、被告本人渡辺福一の尋問の結果にはこれに符合する部分もあるが、これらは前掲証拠にてらして措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。そこで右金員を原告らの各慰藉料債権額に按分して充当すると、被告会社は原告光王に対し三〇、〇〇〇円、原告ミツエに対しては二〇、〇〇〇円を夫々弁済したことになる。よつて原告光王及び同ミツエは被告ら両名に対し、それぞれ一、一七〇、〇〇〇円、及び、七八〇、〇〇〇円の各慰藉料債権を有することになる。

(三)、弁護士費用

原告らは、本件のような不法行為に対する損害賠償請求の訴をなす場合弁護士たる代理人を選任して訴訟を遂行しなければならないから、大阪弁護士会の定める報酬規定の範囲内において請求金額の一割五分に相当する金員(原告光王は一、一五七、〇四〇円、原告ミツエは二二、三六九円)を被告らに請求する権利があると主張するので判断するに、不法行為により損害を蒙つた被害者が加害者に対しその損害の賠償を求める訴を提起する場合には、通常専門家である弁護士を選任し、その適切且つ熟練した訴訟遂行行為により早期に権利内容どうりの賠償が実現される可能性を得るものであつて、その際弁護士に対し報酬として支払う金員は、加害者が任意に債務を履行しないことから被害者がその取立(権利の実現)のため支払を余儀なくされた費用というべく、当該不法行為自体から発生した損害とはいえない。尤も権利の実現に要した費用は、本来、任意に債務を履行しない債務者が負担すべきは当然であるにも拘らず、我が国のように弁護士費用を訴訟費用として回収する方法を認めない制度下においては、被害者たる債権者は訴訟に頼る限りは殆んどの場合権利内容どうりの金員よりも少ない賠償額にあまんじなければならない結果となりがちであるが、この事から当然には、弁護士費用が不法行為自体から発生する損害と看做すことはできないであろう(例えば貸金請求訴訟においても同様の現象が起りうる)。近時交通事故を原因とする損害賠償請求訴訟において弁護士費用を当該事故から発生した損害として一定限度においてこれを損害額中に組入れる取扱いがなされる傾向にあるが、右は自動車損害賠償保障法の採用した被害者側の訴訟上の立証負担軽減措置等との関連において別個に考慮される要素もないわけではないから、本件訴訟をこれらと同列に論じることはできない。

しかしながら、加害者たる債務者が被害者から裁判外でなされた損害賠償請求を相当の根拠もなく争い、債務の履行を拒絶する態度に出た場合には、被害者は訴訟を提起せざるを得ず、従つて本来必要のない出費を余儀なくされるわけであるから、それ自体が違法若しくは不当な抗争として事故そのものとは別個に不法行為を構成することがあるのは当然である。そこで右の観点から本件事故後訴提起に至るまでの経過をみるに、原告光王、同ミツエ、被告渡辺福一の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は本件爆発事故直後、原告光王に代り、浪速港労働基準監督署に事故申告をするかたわら、昭和三九年五月まで右官庁から本来交付されるべき休業補償の立替分、及び、原告ミツエが夫光王に付添い看病したために生じた看護費用をも含め、一カ月四〇、〇〇〇円を原告らに継続給付して、一応従来の生活を維持するに足るだけの措置をとり、同年六月からこれを一カ月三〇、〇〇〇円に減額し、原告光王が第一回目の退院をした同年九月末日を以てこれを打切り、その後は同年一二月一〇日に慰藉料前渡金名下に五〇、〇〇〇円を原告らに交付したにすぎないこと、一方原告光王は右第一回目の退院後被告会社に対し慰藉料五、〇〇〇、〇〇〇円を請求したところ、被告会社から一五〇、〇〇〇円以上は認めがたい旨の回答を受けたため本件訴訟を後記日時に提起するに至つたことが認められる。右事実によれば被告会社は原告光王の入院治療期間中(但し第一回目のそれ)は完全とはいえないまでも、原告ら家族の生活維持に必要な資金の確保に努めた外、第一回目の退院後は慰藉料額につき原告光王と交渉を開始したものであり、最少限の誠意を右事実から汲み取り得ないわけではなく、慰藉料額の交渉も双方に大きな開きがあつたため本件訴訟が提起されるに至つたものであつて、原告光王の請求する慰藉料額は当裁判所が是認できる金額と数百万円の懸隔があり被告会社がこれに承認を与えなかつたのもそれなりに理由があると認められる外、本件訴訟における請求金額等をも考慮に入れると、仮に被告会社が当裁判所において相当と認めた前記金員と同額の慰藉料を原告光王に提供したとしても、本件訴訟が提起されることなく事件が円満に解決されたとは断言できない。そうとすれば、本件事故後における被告会社の示した態度が違法ないし不当な抗争ということはできないのであつて、本件訴訟の提起及びその遂行に要した費用は被告らの負担に帰すべきではないというべきである。よつて原告らの右主張は採用できない。

五、被告らの抗弁について判断する。

被告らは、本件爆発事故について原告光王の過失が原因であつたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

次に、本件爆発事故が昭和三七年二月二八日に発生したことは当事者間に争いがなく、本件損害賠償請求の訴の提起されたのが、右事故後三年を経過した後である昭和四〇年九月二〇日であることは本件記録上明らかであるけれども、被告会社が原告光王、同ミツエに対し慰藉料前渡金名下に、昭和三九年一二月一〇日、金五〇、〇〇〇円を交付していることは前記認定のとおりである。そうすると被告会社は昭和三九年一二月一〇日原告両名に対し、本件爆発事故により原告らが蒙つた精神的財産的損害を賠償すべき債務を負担していることを承認したものというべきであり、被告会社主張の時効は右行為により中断されたものといわざるを得ないから、被告会社の消滅時効の抗弁は採用できない。

尚、被告福一の原告両名に対する損害賠償義務は商法二六六条の三に基づくものであること既に述べたとおりであるが、同条が定める責任の本質は、不法行為責任を特殊化したものではなく、これと異質の特別法定責任と解するのが相当であるから、その時効期間は民法七二四条によるべきでなく、民法総則に定める一般時効に関する規定を適用して一〇年とすべきである。そうとすれば本件爆発事故後一〇年が経過していないこと前記説示から明らかな本件においては、被告福一の時効の抗弁もまた採用することができない。

六、結論

以上により、原告光王の被告らに対する請求は、被告らに対し、各自逸失利益二、三六四、〇九四円、及び、慰藉料一、一七〇、〇〇〇円の合計三、五三四、〇九四円、並びに、右金員に対する損害発生の日の翌日である昭和三七年三月一日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において、また原告ミツエの被告らに対する請求は、被告らに対し、各自慰藉料七八〇、〇〇〇円並びに、右金員に対する昭和三七年三月一日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度において、それぞれ正当であるからこれを認容し、その余の各請求を失当として棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条一項、三項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白井美則 上田耕生 田中宏)

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